おせち料理

「正月は屠蘇で始まり、雑煮をいただいて迎えます。山奥におりますから、普段はなかなか無塩の魚に出会えないものですが、正月だけは特別に、生の鰤が豪勢に使われるのです。
すまし汁仕立ての雑煮の具は鰤の切り身と十六島(うっぷるい)海苔といわれる出雲の岩海苔、そして青みはせり、餅はむしろ跡がついた丸餅です。
昔は、特に交通の便がよくないので、この付近では海のものは貴重品で、鰤が入った雑煮は大変なご馳走でした。膳には、ほかに黒豆と田作(からんま)、別盛りで、あっさりした味の数の子が添えられます。
夜は、香茸や山莱の煮ものなどが詰まった四段重と、ご飯に汁、二品のおかずがついた膳です。今は重箱の中には、正月の間、家内たちがあまり働かなくてもよいような保存できる料理が入っているのが普通ですが、私が小さい頃は、まだ、うちに料理人もいましたから、重箱に家族の人数分だけ、その日作った料理が盛られていました。いただくときは、その重箱をまわすわけです。おせちといっても当時は作りたてをすぐ口にでき、今よりずっとおいしかったですね。
元旦の夜からご飯かと、驚かれるかもしれませんが、この付近は良質な仁多米の産地ですので、自分の田畑で前年の秋に収穫した米に感謝する気持ちなのでしょう。
私どもでは、二日に年始客が300人余集まる祝宴になりますので、正月早々、家内たち女性は、大層大量なおせち料理を用意しなくてはならず、大変な労働になりますなあ。鰤もこの日ばかりは何本も処理するようですよ。
器に使う漆器類の後始末もめんどうなものです。湯流しして糠(ぬか)袋で拭き、さらに絹ぶきんで拭いてしまいますが、やはり、大勢の人の協力がなければできない”正月行事”ばかりだとつくづく思いますね」

一族郎党揃って三宝をいただきます。三宝を置き、両手を重ね、口に運びます。

屠蘇と肴の数の子が出されたあとは雑煮です。具は鰤と岩海苔、せりと丸餅のすまし汁仕立てです。家族一同で囲む膳はすべて絲原家の定紋、抱茗荷(だきみょうが)が入っています。

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