餅揚(つ)き

「餅つきはにぎやかで楽しい行事です。最近は昼から始めて、夕刻には終わるような予定でつきますが、以前は夜明けまでかけてついたものです。差し杵を使ってつくので、うまい餅をつくためには、最低でも五人の男衆がいります。土間にむしろを敷いて、つき臼に注連飾りをかけて、縁起を祝ってつきます。皆で歌を歌い、酒を飲みながら、「えっさ—、もっさ—」と臼のまわりをまわりながらつくのです。
最後に、臼取りの行事をするのも決まり事。両親が揃った者三人で行うこの行事は、二人が杵を持ち、一人が臼の餅を持って「ひと杵千石、ふた杵万石、み杵で数知らず」と、豊年を祝って、明くる年の明き方へ向かって行います。明き方とは運のついている方向を言い、来年は南の方角のようですね。今年の臼取り役は、十五代目にあたる徳康と十六代目にあたる丈嗣が杵を持ちました。私は親が亡くなってから声をかける役です。
土間の隣の部屋では、家族の女性たちと、集まってくれた近くの人たちが、つき終わった餅を小さく丸めて、三の間に広げたむしろの上にのせる作業をします。正月飾りの鏡餅や枯れ枝に花のようにちぎった餅をつけていく花餅もたくさん作って並べていきます。
昔は何俵もつきましたが、今は人も減りましたから一俵ですね。この餅は次の日、むしろの跡がついたものを一族郎党で分けます。むしろの跡は、小判のように見えるので、おめでたく、また、かびがつきにくくなるといわれているようですね。
そして、餅つきが終わったあとは、つきたてのまだやわらかい餅を入れた、甘さをひかえた小豆雑煮をみんなでいただくのです」

つき臼に注連縄をかけ、男衆が大勢で、夏椿で作った差し杵を使って、蒸したもち米をリズム感よくつきます。全員で声をかけながら、気合いを入れて餅をかかげ、臼に落とします。途中男衆は交代しながら一俵分つき上げます。餅つきの仕上げは臼取りの行事。両親が揃った者三人で、声をかけながら行います。女衆は全員でつき上がった餅を丸めて形作り、むしろの上に広げ、一晩そのままおきます。大きいのは鏡餅、小さいのは星餅。花餅は正月飾り用です。翌朝、餅にはくっきりむしろの跡がつき、小判の如く見えるという縁起をかつぐのです。

餅つきのあとは、つきたての餅を入れて、小豆雑煮をいただくのが慣わしです。雑煮は男性にも好まれるように、甘みをおさえて仕上げます。

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