とんどさん

「正月飾りを田んぼに運び、焼いて、歳神を送りあげる儀礼をこの地方ではとんどさんと呼んでいます。子どもたちは正月の書き初めを火の中に入れ、その紙が天高く上がったら、手が上がるということから上手になると信じています。そして、火が弱くなってから、青竹に餅をはさみ、焼くのです。
私のところのように、昔から山の中に住んでいる者にとって、火事はなによりもおそろしいものです。だから、火に関しては特別な思い入れがあり、火を使って焼く焼き餅もこの日までいただきません。焼け残った炭をお互いに顔に塗り合い健康を祈ることを炭つけこうといいますが、 一年に一回、真っ黒になるのもよいかもしれませんね」

当主の手で各帳面に帳名を墨書きして、帳祝いまで、神棚の前に並べておきます。絲原家の帳面は、江戸時代から細目別に残っており年ごとに整理されています。現当主の最初の帳面書きは昭和21年。44年分の帳面が残されています。

書院東南に神棚を作り、宮司さんが祝詞を上げます。お供えは、米とお神酒、そして三方にお鏡をのせ、さらに星餅といわれる小さな餅を三つ置きます。

新年初めの焼き餅は、正月飾りと書き初めを焼いた後、竹にはさんでこんがりと香ばしく焼き上げます。火が消えたあとの炭は、みんなで誰かれかまわず塗りつけて、健康と平和を祈念します。顔中真っ黒になればなるほど、祈りが通じると信じられています。
絲原家のように門松や書院、座敷に正月飾りをいっぱい飾る家はまれです。絲原家は絲原家のみのとんどさんを行いますが、この地方でも地区単位でとんどさんをする地域が多く、皆が持ち寄ってきた正月飾りに一斉に火をつけ大きな火柱を上げます。地区の人がみんな集まって騒ぐ正月最後の祭りなのです。最近は仕事始めの前の日となり、早くなりましたが、昔は十五日の小正月頃、焚き火を囲んだといいます。

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